乾燥肌とは、肌の水分量や皮脂量が不足して潤いがなく、カサカサした状態の肌のこと。肌がつっぱる感じがして化粧ノリが悪くなったり、肌のトラブルを引き起こしたりもするので、どうにかしたいと考えている人は少なくないはず。乾燥肌の原因と効果的な対策をヤナガワクリニックのやながわ 厚子 先生に伺いました。
監修・取材協力:やながわ 厚子 先生(ヤナガワクリニック 院長)
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乾燥肌とは、肌の水分量や皮脂量が不足して潤いがなく、カサカサした状態の肌のこと。肌がつっぱる感じがして化粧ノリが悪くなったり、肌のトラブルを引き起こしたりもするので、どうにかしたいと考えている人は少なくないはず。乾燥肌の原因と効果的な対策をヤナガワクリニックのやながわ 厚子 先生に伺いました。
監修・取材協力:やながわ 厚子 先生(ヤナガワクリニック 院長)
乾燥肌は別名ドライスキン、乾皮(かんぴ)症、乾性肌ともよばれます。
乾燥肌とはどんな状態なのか、特徴をご紹介しましょう。
肌(皮膚)には体の外と内部とを隔てて、病原体などの異物や紫外線などの刺激が侵入しないようにしたり、体内の水分が失われないようにしたりする働きがあります。その働きを「バリア機能」とよんでいます。(3)
バリア機能において重要な役割を担っているのが、肌の表面を覆っている表皮の最も外側にある角層です。肌が乾燥すると角層の持つバリアの働きが弱まります。すると異物や刺激の影響を受けやすくなり、肌荒れなどが起こりやすい状態になってしまいます。(3)
※イメージ
文献(3)を参考に作成
乾燥肌になると、以下のような肌悩みが起こりやすくなるといわれています。
乾燥肌になる主な原因として、加齢やターンオーバーの乱れ、空気の乾燥、紫外線、誤ったスキンケアなどが挙げられます。これらは、体の内部に原因がある「内的要因」と、環境など外部に原因がある「外的要因」の大きく二つに分けることができます。それぞれ詳しく解説しましょう。
加齢は、さまざまな体の機能を低下させます。肌も加齢に伴って、皮脂を分泌する「皮脂腺」の活動が低下し、皮脂量が減少します。(1),(4) 皮脂には肌の表面を保護し、肌を守る働きもあるので、皮脂が少なくなると肌表面が傷つき、バリア機能の低下につながります。(1)
皮脂腺の活動は思春期あたりから増加し、20~30代で一定になります。しかし、更年期を迎える40代半ば頃からは減少していくため、バリア機能もそれに伴い低下していくと考えられます。(1),(5)
肌はターンオーバーとよばれる表皮の新陳代謝によって日々生まれ変わっていますが、何らかの原因でうまく行われなくなることがあります。
ターンオーバーが乱れると肌の保水力が低下して乾燥を招き、バリア機能の低下につながります。(1)
エアコンの空気が直接体にあたると、肌が乾燥し、バリア機能の低下につながりやすくなります。
また、日本は特に、秋から冬にかけて空気中の湿度が低下します。(6) これも肌の乾燥を引き起こし、バリア機能を低下させる一因となります。
紫外線には、浴びることによって体内でのビタミンDの生成が促されるというメリットがあります。(1) ビタミンDはカルシウムの吸収を促し、骨を丈夫に保つビタミンです。体内でビタミンDを作るためには紫外線が必要です。
しかし浴びすぎると皮膚の細胞を傷つけたり、活性酸素という細胞を傷つけてしまう物質を発生させたりして、バリア機能を低下させてしまいます。(1),(7)
また、コラーゲンやエラスチンといった真皮層の保水成分も、紫外線による「光老化」の影響を受けて減少します。(1) これらのことから紫外線は乾燥肌の一因といわれています。
「ぬるま湯ではなく熱いお湯で顔や体を洗って、必要な皮脂まで流してしまう」
「クレンジングの際に肌をこすり過ぎてしまう」
「肌が乾燥気味なのに皮脂の分泌を抑える成分が配合された化粧品を使ってしまう」
などの誤ったスキンケアによって乾燥が進んでしまうこともあります。(1),(8)
乾燥肌を改善するには、どのような対策があるのでしょうか。適切な対策をやながわ 先生に伺いました。
スキンケアには、顔や体を洗って清潔にした後に、肌を守る皮脂膜を補う役割があります。したがって肌の乾燥が気になる場合は、化粧水や美容液の後に油分を多く含む乳液やクリームを使って皮脂膜を補うことが大切です。(1)
乾燥肌向けの成分が配合されたアイテムを使うのもよいでしょう。
なお、化粧品成分の感じ方には個人差があり、「乾燥対策によい」といわれていても、人によっては刺激を感じることもあります。使ってみて、もしもヒリヒリするような感じがしたら我慢して使い続けず、直ちに使用をやめましょう。
「頬は乾燥が気になるけれど、Tゾーンはテカりが気になる」という場合は、パーツによって化粧品を使い分けるのもよいでしょう。
そのほか、洗顔・洗浄時の水温をぬるめにする、入浴後にしっかりスキンケアをする、できるだけ肌をこすらないようにすることも大切なポイントです。
紫外線は間接的に乾燥肌を招くため、紫外線対策は有効な方法といえます。
基本の対策は、毎日日焼け止めを塗ること。(11)
日焼け止めだけで紫外線を100%防ぐことはできないので、日傘や帽子・サングラスを利用する、直射日光を避けた生活を心がけるなどの工夫も必要です。(11)
空気の乾燥は、肌の水分量にも大きく関係します。そのため、加湿器などを使って湿度を適度に調整するのも乾燥肌の予防や悪化防止に有効といえます。
食事などの生活習慣は、乾燥肌の直接的な改善にはつながらないものの、肌の健康を保つうえで重要なポイントといえます。見直しの具体的なポイントをご紹介しましょう。
肌の健康を保つ食事の基本は、三大栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂質をバランス良く摂取すること。(1) 加えて、肌にとって重要な栄養素であるビタミンが不足しないようにすることも意識しましょう。
ビタミンのなかでもビタミンAが欠乏すると、肌が乾燥しやすくなります。サプリメントで摂取するのもよいですが、摂り過ぎると脱毛や頭痛、吐き気などが生じることがあります。できるだけ食べ物から摂取しましょう。緑黄色野菜には、ビタミンAの前駆体であるβカロテンが豊富に含まれています。また、レバー、うなぎ、バター、卵などの動物性食品にもビタミンAが多く含まれています。(1)
睡眠不足は肌の大敵です。睡眠不足が肌のターンオーバーを遅らせ、バリア機能を低下させて肌の水分量を減少させるという報告もあります。(12)
必要な睡眠時間には個人差がありますが、できれば6~8時間は確保できるとよいでしょう。(13)
日々セルフケアを続けていても効果を実感しにくい、もっと早く肌の乾燥を改善したいという場合は、選択肢の一つとして美容医療を取り入れてみるのもよいでしょう。
美容医療では、表皮を整えるのはもちろん、セルフケアでは美容成分を届けることができない表皮の奥の真皮層にもアプローチし、乾燥肌を改善することが期待できます。
美容医療では「肌質改善治療」や「肌育治療」とよばれる、肌を美しくする治療を行うことができます。(14) 肌は顔の大半を占めるため、その状態は顔そのものの印象にも関わります。
治療法は、ヒアルロン酸などの製材を肌に注入する注入治療、導入治療(イオン導入、超音波導入、エレクトロポレーションなど)、照射治療(レーザー、ラジオ波、RFなど)、皮膚再生治療(スキンニードリングなど)、外用治療(外用薬、ケミカルピーリングなど)など、いくつもあるので、ご自身の肌の状態や悩み、どうなりたいかの希望を相談して、自分に合った治療法をアドバイスしてもらうとよいでしょう。
今回は乾燥肌向けの肌質改善治療(肌育治療)のなかでも外科手術に比べて負担が少ないことから昨今、注目が集まっている注入治療について詳しくご紹介します。肌質改善効果が期待できる代表的な製材・製剤には、以下が挙げられます。(14)
※国内承認薬または機器が存在しない治療を含む可能性がありますが、それらを推奨するものではありません
種類 | 主成分 | 期待できる効果 |
---|---|---|
ヒアルロン酸製材 | 架橋型ヒアルロン酸 | 顔や首の小じわの改善 肌の保水性・弾力性の改善(15) |
ECM製剤 | 非架橋型ヒアルロン酸、アミノ酸 | 肌の保水性・弾力性の改善(16) |
PDLLA製剤 | 非架橋型ヒアルロン酸、ポリ乳酸 | コラーゲン生成の促進 顔のしわ改善(17),(18) |
PN製剤 | ポリヌクレオチド | 肌の保水性・弾力性の改善 抗炎症作用・赤みの改善(19),(20) |
それぞれの製材・製剤について詳しく解説しましょう。
ヒアルロン酸製材は主に、ほうれい線などの深いしわや、たるみ改善を目的とされる治療に使われます。近年では、肌の保水性や弾力性を高め、肌質改善ができるヒアルロン酸製材も登場しています。(15)
肌質改善に効果があるとされている架橋型のヒアルロン酸製材を顔や首の皮膚に注入することで、肌の保水性を長期間持続させる効果があります。(15)
肌の保水性、つまり潤いを保つには、天然の保水成分としてよく知られているコラーゲンやエラスチン以外に、「アクアポリン3(AQP3)」という成分も重要です。AQP3は表皮の基底膜周辺に存在し、水分のほかにグリセロールという保水力を高める脂質を運ぶ役割を果たしています。肌にAQP3が多く存在していると、潤ったハリやツヤのある肌になるといわれています。(21)
AQP3は加齢や紫外線による光老化の影響などで徐々に減っていきます。減ってしまったAQP3をセルフケアで増加させることはできません。しかし、AQP3が配合されたヒアルロン酸製材を注入すると、減ってしまったAQP3の増加に有効性を示すことがわかっています。(22)
肌の乾燥が改善し、キメが整うほか、乾燥がきっかけで生じた赤ら顔の改善も期待できます。小じわの改善にもつながるので、しわの少ないなめらかな肌を目指すこともできます。(15)
文献(16)を参考に作成
ECM製剤とは、非架橋型のヒアルロン酸とアミノ酸が配合された製剤です。アミノ酸には、皮膚の老化に関与しているといわれるECM(Extra-Cellular Matrix/細胞外マトリックス)に働きかけて真皮層のコラーゲンやエラスチンの産生を促し、肌のハリや弾力を回復する役割があるとされています。
真皮は、肌の土台となる部分です。乾いて荒れた土壌に種をまいても植物が育たないように、土台が乾燥した肌に治療を施しても、十分な効果が発揮されるとは考えにくいもの。そこでまずは、真皮を整える働きのあるECM製剤を注入し、肌の土台を整えます。そのうえで肌質改善が期待できる架橋型のヒアルロン酸製材などを注入することで効果をより実感しやすくするのが、この治療法のメリットです。(16) 肌の衰えが気になっている人にはとくにおすすめの方法といわれています。
PDLLA(Poly-DL-Lactic Acid)は、ポリ乳酸(PLA)の化学構造を変更してつくられた成分の一種です。PDLLAには、真皮でのコラーゲン合成を増加させることによる肌質改善効果があることが報告されています。(23)
実際の治療では、PDLLA(ポリ乳酸)製剤と非架橋ヒアルロン酸製剤とを混ぜて使用。皮膚内部からコラーゲン生成を刺激して、たるみ、しわ、ニキビ跡、肌の赤みなどにアプローチしていきます。(24)
PN製剤は、サケなどの魚類の生殖細胞からつくられたポリヌクレオチド(Poly-Nucleotide)を配合した製剤です。肌に注入すると、加齢などによって収縮または陥没した部分を改善したり、肌の再生を促したりして、肌状態を改善することが報告されています。(25)
乾燥肌の改善に必要な治療は、年代や肌状態によって異なります。それぞれの悩みや状態に合った治療法がとれるよう、信頼できる医師に相談したうえで行うのがよいでしょう。
乾燥肌に関するよくある疑問についても、やながわ 先生に教えていただきました。
生まれつき持っている肌の力以外には、住む場所の影響が大きいと考えられます。例えば、日光の影響が比較的少ない高緯度に住む人と、日光が当たりやすい赤道近くに住む人とを比較すると、赤道に近いほうが紫外線の影響を受けやすいので、肌が乾燥しやすいといえます。
また、日本のように周囲を海に囲まれている島国は、海からの湿った風によって湿度が高くなりがちです。一方、大陸の国は内陸からの乾いた風によって比較的空気が乾燥しやすく、乾燥肌になりやすいといえるでしょう。
なお、一部では「肌が薄い人のほうが乾燥しやすい」といわれますが、たくさんの患者さんの肌を診察してきましたが、肌の薄さはあまり関係ないと思います。厚くても乾燥している人もいらっしゃいます。
※監修医師の臨床経験に基づく
20代などの若い世代でも急に乾燥肌になってしまうのは、アレルギー、ストレス、睡眠不足、環境の変化、食事の偏りによる栄養不足、化粧品との相性など、さまざまな原因が考えられます。
急に肌が乾燥しやすくなったけれど、自分では何が原因なのかわからないという時こそ、寄り添ってくれる医師や美容医療に頼ってほしいです。一緒に改善していきましょう。
※監修医師の臨床経験に基づく
体から水分が失われ脱水症状になると、肌も乾燥してしまいます。そのため、適切に水分摂取をすることは必要です。しかし、体のなかで水分は肌以外に血液や細胞液などとしても利用されており、水をたくさん飲んだからといって、肌の水分量だけが極端に増えるわけではありません。(26)
水の飲み過ぎで体調を崩すこともあるので、水分摂取はほどほどにしましょう。
参考文献
(1) 安田 利顕,漆畑 修:改定 10 版 美容のヒフ科学:南山堂.2021
(2) BellaPelle.2020;5(1);14-18.メディカルレビュー社.2020
(3) 川田 暁:美容皮膚科ガイドブック第3版.中学医学社.2023
(4) 病気がみえる vol.14 皮膚科.メディックメディア.2021
(5) 病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科.メディックメディア.2018
(6) 日本気象協会「【動画あり】日本の冬は砂漠より乾燥する?湿度と肌年齢の関係を実験してみた!【絶対湿度】」
(7) 厚生労働省「eヘルスネット」活性酸素と酸化ストレス
(8) 小笠原 祐子:日本フットケア学会雑誌.17(1):43-45.2019
(9) 曽山 聖子:美容皮膚医学BEAUTY.7(6):4-9.2024
(10) 高橋 康之:日本香粧品学会誌;42(4):280–287.2018
(11) 環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」
(12) 阿部 裕子 他:日本香粧品学会誌;47(3):183-189.2023
(13) 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
(14) 谷 祐子:美容皮膚医学BEAUTY.7(6):2-3.2024
(15) 今泉 明子:美容皮膚医学BEAUTY.7(6):71-75.2024
(16) 梁川 厚子:美容皮膚医学BEAUTY.7(6):76-82.2024
(17) Zhao Jiajing,Chen Ziwei,et al.:Journal of biomedical materials research. Part A.2023;112(5);721-732
(18) Tae-Rin Kwon et, al:J Cosmet Dermatol.18(4):1002-1008.2019
(19) Lee Dagyeong, Kim Michael J,et al.:Skin research and technology.2023;29(9);e13466
(20) Lee Kar Wai Alvin, Chan Kwin Wah Lisa,et al.:International journal of molecular sciences.2024;25(15);8224
(21) 鈴木 雅一,田中 滋康:生化学.2014.86(1):41-53
(22) KM Kapoor,et al.:Clin Cosmet Investig Dermatol.2021;14:1105-1118
(23) Seyeon Oh et, al:Antioxidants (Basel).12(6):1204.2023
(24) Suk Bae Seo et, al:Journal of Cosmetic Dermatology.23(3);794-802.2023
(25) Park, Kui Young, et al:Dermatologic therapy.29(1);37-40.2016
(26) 田中 正敏:人間と生活環境.6(2):85-91.1998
1999年3月に愛知医科大学医学部を卒業し、同年5月から関西医科大学病院にて研修、および関連病院で勤務。
2003年5月から美容外科クリニックにて多くの美容外科手術、美容皮膚科治療を担当する。2007年7月に大阪堺筋本町に美容外科・美容皮膚科・形成外科「ヤナガワクリニック」を開業。約18年の開業で日々治療にあたっている。
ヤナガワクリニック
住所:大阪府大阪市中央区南船場3丁目5-28 富士ビル南船場6F/3F