「顎のヒアルロン酸注射（ヒアルロン酸注入）のメリットは？」「顎のヒアルロン酸注射は顔が長くなるって本当？」など、顎へのヒアルロン酸注射に興味を持っている方は少なくないようです。

顎のヒアルロン酸注射は、メスを使わずに輪郭をすっきりと見せたり、横顔を美しく整えたりすることが可能です。

しかし、治療によるデメリットや効果について不安があり、クリニックへ相談するのをためらっている方もいるでしょう。

そこで今回は、事前に知っておきたい顎のヒアルロン酸注射の効果やリスク、気になる疑問について、ルラ美容クリニックの小海 先生に伺いました。

監修・取材協力：小海 元 先生（ルラ美容クリニック 池袋院 院長）

顎のヒアルロン酸注射は、医療用のヒアルロン酸を注入し、顎を出すことで、顔のバランスを整える施術の一つです。⁽¹⁾

もともと顎や輪郭にお悩みがある方だけでなく、年齢を重ねたことによる顔のバランスの変化が気になる方にも有効な施術といえます。

顎は加齢とともに起きる変化が目立ちやすいパーツの一つです。年齢を重ねると顔全体の骨や筋肉が縮みます。すると、顎やフェイスライン周辺にたるみやしわができたり、人中（鼻と唇の間）が長くなったりします。これらの変化は老けた印象を与えてしまいます。⁽¹⁾

ヒアルロン酸で減少したボリュームが回復すると、若々しい印象に近づけることが可能です。

注射だけなので、メスなどを使用する外科手術と比較し、身体的な負担が少ない施術といえるでしょう。

顎のヒアルロン酸注射で期待できる効果としては、輪郭をシャープに見せる、Eラインや顎の見た目（ケツあご・割れ顎）を整える、顎の小ささによる二重あごの改善などがあります。順に詳しく見ていきましょう。

顎先については特に女性の場合、ほっそりとして鋭角になっているほうが美しいとされています。⁽¹⁾

顎先を中心にヒアルロン酸注射をして鋭角な顎をつくると、こめかみから顎へと続く輪郭のラインが整い、シャープで美しい輪郭に見せることができます。⁽¹⁾

Eラインとは、横から見たときの鼻先から顎にかけてのラインのことです。横顔の美しさをはかる基準のひとつで、日本人の場合、鼻先、唇、顎が1本のライン上にあることが美しいといわれています。⁽¹⁾

日本人を含む東洋人は、そもそもの骨格の特徴として顎先があまり突き出しておらず、顎の長さが短い（顎が小さい）ため、美しいEラインを描きにくい傾向があります。⁽¹⁾ 顎先を前に出すようにヒアルロン酸を注入するとEラインが整い、美しい横顔をつくることができます。

顎の長さが短い（顎が小さい）ことは、顎下の脂肪のもたつきを生じさせ、二重あごの原因にもなります。

顎先やフェイスラインを中心にヒアルロン酸を注入し、顎を前に出すことは、顎が小さいことで生じる二重あごの改善も期待できます。

顎の位置や大きさが整い、顔全体のバランスが整うことで小顔に見せる効果も期待できます。

ケツあご（割れ顎）とは、顎先が割れて臀部（お尻）のように見える状態のこと。骨格や筋肉の影響によって生じるといわれています。

ケツあご（割れ顎）の原因^(2)~(5)

こうした状態の顎も、縦に割れている部分にヒアルロン酸を注入することで改善が見込めます。

顎のヒアルロン酸注射は、他の部位に比べて安全に行うことが可能です。⁽⁶⁾

ヒアルロン酸注射全般の注意事項として、施術後から数日間（場合によっては1～2週間）は内出血、腫れ、むくみ、赤み、かゆみ、痛み、不自然な凹凸などの症状が起こることがあります。顎の場合、施術部位のむくみや鈍い痛みは多少あるものの、これらの症状は比較的起きにくい傾向があります。

ただし、もしも以下のような兆候があれば、治療を受けたクリニックに連絡してください。^(1),(6)

• 腫れや赤みが日に日に悪化する
• 施術箇所に白いニキビができる
• 周辺の皮膚の色が広範囲に紫や白色になる（血流障害）
• １週間以上経っても強い痛みがある

また、比較的安全な部位とはいえ、皮膚の循環障害や壊死などの重篤な有害事象や、注入後、時間が経ってからの感染症、アレルギー症状、肉芽腫、血腫、感染、注入部位の着色または退色、神経圧迫、塞栓、膿疹形成、過敏症などが起きることはあり得ます。^(1),(6)

施術前から医師とよく相談し、なるべく不安を減らしておくとともに、施術後しばらくは、ヒアルロン酸注射した部位の状態を日々チェックしておくことも大切です。

顎のヒアルロン酸注射を実際に行う場合の大まかな施術時間や流れなども、小海 先生に教えていただきました。

ヒアルロン酸注射の主な流れは以下の通りです。

1. メイクを落とした状態でカウンセリングを行い、治療方針（デザイン）や使用するヒアルロン酸製材を決める
2. 麻酔をする（顎の場合は注射による麻酔を使用するのが一般的）
3. ヒアルロン酸を少しずつ注入する
4. 仕上がりを確認し、処置完了。完了後は問題がなければ帰宅が可能

ヒアルロン酸注射のトラブルとして多い、入れすぎ（過剰注入）を防ぐため、仕上がりを確認しながら少しずつ注入をしていきます。注入そのものにかかる時間は、ヒアルロン酸注射1本あたり5～10分ほどです。⁽⁷⁾

顎をシャープに整えるには、骨膜という骨の外側にある膜上に注入するケースが多いです。骨膜上にヒアルロン酸を注入すると、ヒアルロン酸がフェイスラインを支える土台となり、美しい輪郭に近づけます。しかし、注入量が少量の場合などは、皮下脂肪や筋肉などの浅い層に注入することもあります。^(1),(6),(7)

ヒアルロン酸注射の処置後24時間は、激しい運動、日光や高温への長時間の曝露、飲酒、喫煙は避けましょう。⁽⁶⁾

また、注入した製材が移動して修正位置がずれるのを防ぐため、処置後1週間程度は注入部位のマッサージや圧迫を避けることも推奨されています。

ヒアルロン酸には、硬さや弾力性などの違ういくつかの種類があります。

顎に使用するヒアルロン酸は、粘度と弾力のある比較的硬い製材が使われることが多いです。⁽⁶⁾

日本国内で使用されているヒアルロン酸製材には、硬さの違いのほか、薬事承認されているものとそうでないものという違いもあります。

薬事承認とは、国内において品質や安全性が保証されていることをいいます。薬事承認された薬剤や医療機器は「承認品」、承認されていないものは「未承認品」と呼ばれ、保険診療の場合は原則、承認品しか使用が認められていません。⁽⁸⁾

美容医療などの自由診療では未承認品を使うことも可能です。しかし現在、国内の美容皮膚科学会などでは安全治療に対するガイドラインが作成され、薬剤や医療機器は、開発や実証までに多くの手間や時間を費やしている承認品の使用が推奨されています。^(8)~(10)

未承認品は、医師の裁量のもと個人輸入されており、海外では使用されている製品です。けれども日本国内における品質や安全性は保証されておらず、なかには効果や安全性が不確かなものもあります。

顎のヒアルロン酸注射（ヒアルロン酸注入）に関する気になる疑問を、小海 先生に教えていただきました。

ヒアルロン酸注射は非常に細い針を用いて行います。そのため、注射時の痛みは少ないとされています。加えて、顎は顔のなかでも痛みを感じにくいといわれる部位であるため、ブロック麻酔（注射の麻酔）を使用して注射をすると、ほとんどの痛みは軽減できると考えられています。⁽¹⁾

ただし、痛みの感じ方には個人差があることから、クリニックによっては痛みが不安な患者さん向けに笑気麻酔がオプションで用意されています。

顎にヒアルロン酸を注射してもバレることはほとんどないと言ってよいでしょう。顎を含めた顔全体のバランスが整うので、周囲に与える印象は変わりますが不自然ではないため、メイクを変えた、もしくはダイエットをしたと捉えられることが大半です。

はじめのほうでもお伝えしたように、日本人を含む東洋人は、そもそもの骨格の特徴として、顎の長さが短い（顎が小さい）傾向があります。⁽¹⁾ そのため、実は少し縦横に長さを足したほうが、全体のバランスが整いやすいのです。

顔には、世界共通で美しいとされるバランスがあり、縦幅は額の髪の生え際から眉下、眉下から鼻先、鼻先から顎の先までがそれぞれ均等な3分割になっているのが理想といわれています。⁽¹⁾

日本人の場合、下顔面と呼ばれる鼻の下から顎先が少し短い童顔が好まれますが、その場合でもあまりに下顔面が短いとアンバランスになってしまいます。顎の長さを足すことで全体のバランスが整うので、長さを足しているのに小顔に見える効果もあります。

もちろん、必要以上に顔の縦幅が長くならないよう、顎の前方にも注入して、美しいEラインがつくられるようにすることも心がけています。

持続期間には個人差がありますが、顎に適したヒアルロン酸製材であれば18か月程度、効果が持続するとされています。⁽¹¹⁾

なお、ヒアルロン酸は一定の期間がたつと分解され、肌に吸収されていきますが、ヒアルロン酸注射をした後は、注入の刺激によって肌そのもののコラーゲン産生も促されることが研究により証明されています。つまり、ヒアルロン酸注射をした部位は、注入されたヒアルロン酸製材が分解された後も、注入前よりボリュームが保たれる可能性があります。⁽¹²⁾

ヒアルロン酸注射そのものの持続期間が延びるわけではありませんが、うれしい副産物といえますね。

顎のヒアルロン酸注射（ヒアルロン酸注入）にかかる値段は、注入する製材の量や種類などによって、クリニックごとに異なるものの、多くの場合、1本（1cc）あたりで6～8万円の値段が設定されています。

理想的な顎の形成に必要な量は一人ひとり異なるので、信頼のおけるクリニックでカウンセリングを受け、ご相談いただくとよいでしょう。⁽¹⁾

参考文献
(1) 古山 登隆:解剖から学ぶヒアルロン酸注入療法:メディカルレビュー社.2020
(2) Højland et al.: American journal of medical genetics. Part A, 2018.176(12):2915-2918
(3) Smigieł et al.: Medycyna wieku rozwojowego, 2011.15(4):451-7
(4) Lin et al.: The Journal of craniofacial surgery. 2009.20 Suppl 1:608-11
(5) Nyárády et al: Mund-, Kiefer- und Gesichtschirurgie: MKG, 2004.8(6):387-9
(6) 大慈弥 裕之:ヒアルロン酸注入治療安全マニュアル:克誠堂出版. 2018
(7) 岩城 佳津美:美容皮膚医学 BEAUTY.2020.3(1):14-21
(8) 厚生労働省「医療機器の薬事承認等について」
(9) 日本美容外科学会「美容医療診療指針（令和 3 年度改訂版）」
(10) PMDA「薬剤承認の仕組みについて～安心で効果的な薬剤を届けるために～(2023 年 1 月)」
(11)電子添文 ジュビダームビスタ ボラックス XC 2023年 8月（第1版）
(12) Quan, T., Wang, G. J., et al: Enhancing structural support of the dermal microenvironment activates fibroblasts, endothelial cells, and keratinocytes in aged human skin in vivo. 2013. J. Invest. Dermatol. 133: 658-667